乾坤一擲


「えっ、ぼくと公明殿が勝負?」
呼び止められた太公望が、当惑して聞き返す。
「仮にも、この俺の上に立とうって言うんだ。実力で納得させてもらわねぇとな」
仲間になったものの、公明はまだ西岐軍になじんでるとは言いがたい。
元々がおおらかで人懐こい性格なので、何かきっかけがあれば、一気に親しくなってくれるようにも思う。
そのきっかけになれば。
「分かりました、受けてたちます! ……天化! 審判してくれ」
くるりと振り返った太公望が、面白そうに眺めていた天化を指名した。
「へ? なんで俺が」
「ぼくを『大将とは認めない』、と言った君なら、公平な判断をしてくれるだろう?」
暇そうだし。
という呟きは、隣の公明だけが聞いていた。
「よーし、気が済むまでやってくれ」
名指しされて、悪い気はしなかったらしい天化が、少し離れた高台に腰をおろす。
あらためて、太公望が公明を振り返った。
「公明殿、ここは武力ではなく、道士らしく術での対決としませんか?」
「おう、構わないぜ。宝貝での戦いか? それとも気孔術での削り合いか?」
「いえ……乾坤術で」
「「――乾坤術ぅ?」」
公明と天化が、素っ頓狂な声を上げたのも、当然ではあった。

***

同じ棍使い。
術を得意とする二人の実力は伯仲している。
「隆起!」
「浮上!」
「広陥没!」
「大隆起!!」
互いの陣地を決めて、盛り上げたり掘り下げたり。
造成合戦も佳境に入っていた。
「兄上、終わったみたいですよ」
最初は真面目に見ていたものの、すぐに飽きて転寝を決め込んでいた天化を、天祥が起こす。
術力を使い果たし、二人共自分の陣地でぐったりしていた。
かたや、天を突くような岩山。
かたや、よくここまで平面に、と言いたくなるような平地。
性格をよくあらわしているような造形物だ。
「ど、どうだ!?」
「審判、結果は……」
「あー……これは」
しばらく両方を見比べた後、天化が軍配を上げた。
「太公望の勝ち」
勝利を確信していた趙公明が叫ぶ。
「な、なんでだ!?」
食ってかかった公明に、天化は肩をすくめる。
「見栄えで言うと、あんたの方が上なんだけどな。俺たちがここを離れた後、普通の人間が使うことを考えたら……こっちだろ?」
「あ……!」
ここは人里が近い。
太公望が整えた平らな地形は、人々が利用しやすく、しかも乾坤術で適度に掘り返されているので、農地にも向いていそうだ。
「後のことまで考えてやがったのか……。まいった、俺の完敗だ――!」
己の不明を恥じて落ち込む公明に、太公望が手を差し伸べた。
「公明殿。同じ目的で道を共にすることになったのではありませんか。勝ち負けなどありません。その術力を、どうぞこれからも人々のためにお使いください」
「……分かった、俺で力になれることなら、いくらでも言ってくれ!」
「公明殿!」
「大将!」
がしっと手を握り合い、好敵手と認めた相手に、満面の笑みを返す。
「俺が作っちまったこの山、平らにしないとな」
「それは、明日出立する時になんとかしましょう。今日はさすがに……」
疲れ果てた太公望が、そう言った時だった。
散歩をしていたらしい韋護が通りかかった。
しばらくの間、天高くそびえる、趙公明作の山を眺めていたが……。
「平坦」
ぼそっと呟かれた言霊の後、山が、ずん、と音を立ててつぶれた。
一瞬にして、太公望の作った平地と同じ状態に。
満足気にうなずいたあと、何事もなかったかのように、韋護は静かに去っていく。
「……何気に最強ってか?」
天化の言葉に、内心「我こそは」と思っていた二人が、反省してがくりと膝をついていた。


おわり


光栄封神の攻略を作っている時、メン池城前でちょっと遊んでいたのです。
敵を一人だけ残して、呑気に造成事業。
趙公明は土地を盛り上げ、太公望は掘り下げ。
二人とも、乾坤術をほぼ極めていたので、大隆起や移山でマップがめちゃくちゃになりましたw

実際には、韋護さんは出陣していなかったのですが、実は彼が唯一乾坤術を完全にマスターしているので、二人より上だなぁと思いまして、こんな話に。

とりあえず、平坦や重圧以外の乾坤術は、歩きにくくなること間違いなしです。