青龍の章 ―雷震子―


「なたちゃーん」
「ああもう、うるせーっての!」
「なたちゃん、あそぼ」
「オレは修行にきてんだからな、邪魔すんな」
まとわりつく雷震子に那咤は閉口しきっている。
「らいちゃんもしゅぎょうするのだ」
「じゃ、競争するか?」
「うん、するする」
「西にはでかい虎、東には大きな龍がいるんだってよ。オレは虎を探す。お前、龍を探せ」
「わかったのだ、みつけてどうするのだ?」
「倒す!」
「わかったのだー!」
体よく追い払われたとも思わずに、雷震子は素直に竜とやらを探しに行く。
「でも、りゅうってどこにいるのだ?」
しばらく考えながら飛んでいると、地上に見覚えのある姿があることに気が付いた。
楼台から、眼下の紅葉を眺めている青年。
周の武王だ。
「ぶおうちゃん」
「おお、雷震子君じゃないか。どうしたんだね、こんなところに」
「あのね、りゅうをさがしてるの」
「竜? うーん、竜と言えば、海か大河と言われているね」
「わかったのだ、おおきなかわにいってみるのだ」
「きをつけておいき。……いけない、ひらがながうつってしまった。な、なおらん」
……意外と影響されやすい国の代表であった。

***

山をひとっ飛びで超え、大きな川に到着。
雷震子はきょろきょろと辺りを見回して、川のほとりでうろうろしている若者を見つけた。
「こんにちはなのだー」
「これは可愛いお客さんだ」
「らいちゃん、りゅうをさがしてるの。しらない?」
「知ってますよ。教えてあげる代わりに、相撲をとりませんか?」
「やる、やるのだー」
線だけを引いた簡単な土俵を作り、向かい合って礼。
「よろしくおねがいなのだ」
「これはご丁寧に……」
相手も深々と頭を下げる。
その頭の皿から、水がこぼれた。
彼は河童なのだった。
「……あっ!」
「らいちゃん、いっきまーす!」
「ちょ、ちょっとたんま……」
叫びもむなしく、雷震子は鳥人間の姿に変化し、河童に突進する。
「うわあぁぁぁ……」
「らいちゃんのかちなのだ」
ふっとばされた河童は、倒れて動かなくなる。
敗因が、雷震子に弾き飛ばされたからなのか、頭の水がなくなったからなのか、河童本人にしか分からない。
「やくそくなのだ。りゅうはどこにいるのだ?」
「あ、あっち……」
「ありがと、らいちゃん、もういくのだ。ばいばーい!」
ぱたり、と河童の手が地面に落ちた。

***

河童に教えてもらった方角へ飛んでいると、大河の中州で日向ぼっこをしている竜を見つけることができた。
雷震子は、その前に降り立ち、手を振る。
「りゅうちゃん、みつけたのだ。しょうぶなのだー!」
「おや、私に挑もうというのか? 幼いのに剛毅なことだ」
「らいちゃん、おさなくないのだ。もうななつなのだ」
「わかったわかった」
小さい来訪者が珍しかった竜は、あくびをしながらも体を起こした。
本気でやるのは大人げないだろうと思ったか、片腕だけをあげる。
「ではいくのだ」
「よし、いつでもかかってきなさい」
しかし、雷震子はその場から動かず、急に話し出した。
「むかしむかしあるところに……」
「ん?」
「あばれんぼうのおとこのこがいたのだ。なつのあつーいひ、そのこは、かわでみずあびをしたのだ」
(変換:暴れん坊の男の子がいたのだ。夏の暑い日、その子は、川で水浴びをしたのだ)

「ふむ?」
「そのこはぬののぱおぺえをもっていて、そのぬのをあらうと、かわはうずまき、かわのなかのきゅうでんは、ぐらぐらゆれたのだ」
(変換:その子は布の宝貝を持っていて、その布を洗うと、川は渦まき、川の中の宮殿は、ぐらぐら揺れたのだ)

「それはまた、迷惑な……」
「おこったりゅうは、そのこにおそいかかったのだ!」
(変換:怒った竜は、その子に襲いかかったのだ!)

「それは確かに怒るだろうな」
「ところが、そのこは、とーーってもつよくて、りゅうをつかまえると、あたまをなぐり、ひげをぬき、たてがみをひっぱり、うろこをはがし……」
(変換:ところが、その子は、とっても強くて、竜を捕まえると、頭を殴り、髭を抜き、たてがみを引っ張り、鱗を剥がし……)

「ぐわ……聞いているだけでも痛い……」
「さいごには、すじをひきぬき、かわをはいでしまったのだ!」
「も、もうやめてくれぇっ」
「まだつづきあるのだ」
「ぼ、坊や、これをあげるからもう勘弁してくれ」
竜が、鋭い爪の先につかんでそっと渡したのは、青く輝く一枚のウロコだった。
「わぁ、きらきらきれいなのだー」
「坊やは、そんな痛いことしないでくれるな?」
「うん、しない。ひげをぬいたり、たてがみをひっぱったり、うろこをはがしたり、すじをひきぬいたり、かわをはいだりしないのだ」
「ぐわあぁぁ」
精神攻撃に負けた竜が、水底深く沈んでいく。
見事竜に勝利した雷震子は、勝った証である竜のウロコを持って、那咤のいる西へと吹っ飛んでいったのだった。


おわり





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