朱雀の章 ―嬋玉・白鶴―


ある日、鎬京の大通り。

「ししょ〜、どこ〜」
「太公望さーん、どこ〜」

白鶴と嬋玉が出会った。

「なんであなたがここにいるのよ!」
「それはこっちのセリフよ!」
「あたしは仙界からししょーへの届け物よ!」
「あたしだって、界牌関からの定期連絡のついでよっ!」
「だったら、ししょーに会う必要なんてないじゃない」
「あら、未来のだんなさまに会いにきて何が悪いのよ」
「だんなさ……何言ってんの? ししょーはあたしのししょーなんだからねっ!」
「誰があんたのなのよ! この鶴!」
「何よ、このザリガニ娘!」
「ザリ?」

「「勝負よ!」」

二人の美少女の間で火花が散った。
じりじりと睨み合い、今にもつかみあって取っ組み合いとなりそうな雰囲気であったが、なんとか二人とも踏みとどまった。
「太公望さんはつかみ合いのケンカなんて好まないわ。ここは女らしい勝負にしましょう」
「じゃ、料理で決着をつけるというのはどう?」
「望むところだわ!」
「せっかく作るのだから、最高級の食材でないと」
「もちろんよ。こんなこともあろうかと、情報集めしてきたの。仙界通信第二万八千五百六十二号、「長生きできる健康食材」特集!」
「仙人ってまだ長生きするつもりなの? ……何々、朝露は峨嵋山の四時頃、白樫の大木が狙い目。霞は千尋谷の麒麟崖にかかるものが最良。――だめよ、太公望さんはまだ仙人じゃなくて、普通の人間なんだから。ちゃんと食べられるものじゃなきゃ。第一、これじゃ「料理」にならないじゃない」
「それもそうね……それじゃ、何作る?」
「そうねぇ」
「道士だもの。やっぱり精進料理!」

そして二人は山へやってきた。

「何を探せばいいの?」
「そうねぇ、まずゴボウでしょ、それからニンジン……」
「分かったわ、イチゴ、ニンジン、サンダル、ヨットね!」
「それ違うし……イタドリ、ニンジン、シイタケ、ゴボウよ」
「ごぼうってコレ? うーん、抜けないわねぇ、えいっ」

小高い丘の上、地面を剣でざくざくする嬋玉。
とたんに、あたりが大きく揺れた。

「やだ、地震かしら」
「収まったわ」
「さ、続き続き、えいっ」
「やん、また地震〜」
「ええい、いい加減止まれ〜っ!」

さらに地面をざくざくする嬋玉。

「ふう、止まった」
「上等上等、立派なごぼうだわ。ところでこの山……亀に似てるわねぇ」
「ほんと、よく似てるわねぇ。」

去っていく二人の後ろで、玄武が地に伏せていた。

   ***

「次は、中華ならやっぱエビチリでしょ」
「そういえば、何気に中華の定番になってるけど。チリソースがなんで中華なのかしら。第一、この時代には……」
「いいのよ、封神演義だから!」
「そっか、時代考証まるで無視の封神演義だもんね! で、エビってどこにいるの?」
「とりあえず川か海でしょ。♪せんば川にはえびさがおってさ〜」
「♪せんば山には狸が〜じゃないの?」
「地元のくまもとでは、せんば川のえびなんだそうよ。せんば川はあるけど、せんば山はないんだって」
「へぇ〜×5」

そして二人は川へやってきた。

「どうやって捕まえようかしら」
「そういえば、この間、雑巾縫おうとしたら、こんなものができたんだけど」
「……どう見ても地引網ね。どうして雑巾が地引網になるのかよく分からないけど、使えそうじゃない」
「それじゃ、そっちの端を持ってちょうだい」
「川の向こうとこっちで、せーのでひっぱるわよー」

「「せーのっ!」」

ざばーーーっと引き上げられたのは。

「巨大なザリガニだわ!」
「ザリガニって食べられるのかしら?」
「エビに似てるからいけるんじゃない?」
「よーっし、朱雀剣〜っ!」
「紅珠〜っ!」

「ゆであがったわ!」
「……ずいぶん長いザリガニねぇ」

嬋玉が切り刻む前に、白鶴がはたと気づいて止めた。

「ちょっとまって! やっぱりコレって生臭に入るわよね」
「ああっ、道士の太公望さん、食べられないじゃない!」
「はぁ〜無駄足かぁ〜」
「コレどうする?」
「放っとけばカニか何かが片付けてくれるわよ」
「あーあ、すごいのが獲れたと思ったのになぁ」

去っていく二人の後ろで、青龍が川を流れて行った。

   ***

「お次は、イナゴの佃煮なんかどお?」
「ししょーが生臭もの食べるわけないじゃない!」
「じゃ、ハチの子とか……」
「虫から離れなさいよ!」
「んじゃ、蜂蜜」
「蜂蜜ならお菓子作れそうね」

そして二人は森へやってきた。

「蜂の巣みっけ……」
「む、虎だわ!」
「待て!」
「待てー!」
か弱い少女二人とみて襲いかかった虎だったが、いつの間にか、逆に追われている。
「……あら、トラの奴どこいっちゃったのかしら。」
「ぐるぐる回りすぎて、バターになっちゃったみたいよ」
「バターに蜂蜜ときたらホットケーキよねぇ」
「たっぷり生クリームつけて、ジャムもかけて……」
「アイスクリームもいいわよね」
「チョコスプレーもたっぷりと……」
「やーん、太っちゃうー」
「ところであたしたち、何しに来たんだっけ?」
「さぁ?」

去っていく二人の後ろで、白虎(の霊)が漂っていた。

  ***

「最後はやっぱり玉子焼きよね」
「一見簡単そうに見えて、実は熟練の技と長年の勘の塊と言われる、ふんわりじゅーしぃな卵焼きを焼けるのが、可愛いお嫁さんの条件よ!」
「簡単に手に入る卵じゃだめよ」
「朝歌の養鶏家が、「森の樹液ヨード光新鮮うみたて庭先放し飼いたまご」を売ってるらしいの」
「すごい名前ね」

そして二人は、養鶏農家にやってきた。

「森の樹液ヨード光新鮮うみたて庭先放し飼いたまごくださーい」
「森の樹液ヨード光新鮮うみたて庭先放し飼いたまごは売り切れだよ。あれは一日限定1つなんだ。もう1年先まで予約が入ってるよ」
「ええ〜、それじゃ森の樹液ヨード光新鮮うみたて庭先放し飼いたまご、手に入らないんですか?」
「自分で育てればいつでも手に入るさ。雌鶏だったら、卵と同じ値段だよ」
「「買ったぁ!」」

しかし、二人の手に乗せられたのは。
「「……ひよこ?」」
「卵産めるようになるまであと一月くらいだね」
「「一月……? だ、騙された……」」

   ***

「むう、一月もまってられないわ。でも、やるからには材料からこだわらなきゃね」
「鳥……鳥……鳥といえば、朱雀!」
「「朱雀の卵!」」

そして二人は、湖へやってきた。

「か……勝ったわ!」
「やったわね」
ぼろぼろになった炎の鳥が、悔しそうに言う。
「うぬ……私としたことが……。仕方がない、なんなりと望みを言うがいい」
「「卵ちょうだい!」」
「何? ……それは無理だ」
「どうしてよ、なんなりとって言ったじゃないの!」
「私は霊気が形をなしたもの。卵を生めるわけなかろう」
「「こんの役立たず!」」

立ち去る二人の後ろには、羽を抜かれた炎の鳥が落ちていた。

   ***

「鳥……そういえば目の前に鳥がいるわよねぇ」
「え? どこどこどこ?」
きょろきょろと辺りを見回す白鶴。
嬋玉は、じーーーっと彼女を見ている。
その視線に、ようやく白鶴が気付いた。
「し、失礼ね!」
「だって鶴でしょ。卵くらい生めるんじゃない?」
「言ったわね、卵なんてザリガニだって生めるわよ!」
「ザリ?」



そしてすべては、ふりだしに、戻る。

おわり





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