四神伝 ―天化―10


「天化」
耳元で呼ばれるとくすぐったい。
この後どうするかと思って、まだ寝たふりを決め込む。
「ぐえっ」
いきなり首を絞めやがった。
「なんてことしやがる……」
普通、揺り起こすとか、もう少し穏やかな手段に出ないか?
「今日は、兵士たちの様子見に行かなくてもいいのかい?」
「午前中は定期訓練だし、俺が出張らなくても大丈夫だろ」
「そう、残念だね。てっきり行ってると思って、作ったお弁当、訓練場の方に届けてもらったのに」
「なんだって?」
「そろそろお昼……。いなかったら皆で分けてって伝えといたから、もう食べられちゃったかな」
「……行くぞ」
滅多に食えない手料理を、一般兵なんぞに食われてたまるかっつーの。
「ん?」
「お前も来い。ついでにまた手合せ頼む」
こいつの考えていることなど、言われなくても分かる。
どうせ旅の虫が騒ぎ始めて、別れの挨拶に来たんだ。
困ったような顔をするのを、有無を言わさず引っ張っていく。
……もう一日くらい延ばしたっていいだろう?

試合中、兵士たちが弁当をつまみ食いしているのに気づき、怒鳴ろうと振り返ったところに、無限倒落をまともに食らったのは、親父や武王にはくれぐれもナイショである。



おわり





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