四神伝 ―太公望―8


鎬京に来るたび、黄家には世話になっている。
何かお礼をしたいことろだが、相手は周一の大豪族。
もしかすると王より贅沢な暮らししてるんじゃないだろうか。
こんな相手に下手なもの渡しても、笑われるだけだ。
ここは無難に……食べ物で釣っておこう。
厨房の女官たちとは、すっかり顔なじみになっている。
頼めば少しくらい材料を分けてくれるだろう。
ところが、厨房に近づくにつれて、何か異様な気配が漂い始めた。
なんだろう?
入口の前に、厨房の女官たちが集まっていた。
困ったように中を覗き込んでいる。
「どうしました?」
「あ、太公望様」
この重苦しい空気、そして妙な臭い……。
鼠退治の毒でも撒いているのか?
「太公望さん!」
「ししょーー!」
中から、聞き慣れた声が飛び出してきた。
な、なんでこの二人がここに……。
「心を込めて作ったわ、たくさん食べて!」
「あたしたちの料理食べたいって言ったよね」
嬋玉が差し出した小皿にもられた、得体のしれない物体……
これは食べ物なのだろうか。
殺鼠剤だとばかり思った匂いは、確かにこれから発せられている。
白鶴が差し出した大皿に並んだ、あふれんばかりの玉子焼き。
これを全部ぼくに食べろと?
見た目はまともだけど、軽く十人前はありそうなんだけど。
「さ、遠慮しないで食べて!」
「で、どっちが美味しいか、決めてね」
つきつけられる皿。
目の端で、女官たちが助けを求めに走っていくのが見えた。
救援がたどりつくまで、ぼくは無事でいるだろうか。
「「さ、早く早く!」」
せかす声、充満する匂い。
気が遠く……なっていく……。


   おわり





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