四神伝 ―太公望―9


長い回廊から見える、緑豊かな庭。
敷地内に小さな滝や林まであるなんて、やりすぎという気もしないでもないが……
無造作でいて、考えつくされた植物や石の配置。
それでいて、押し付けがましくない。
よほど腕のいい庭師がいるのだろう。
居心地いいから、ついいつも長居してしまうのだけど、そろそろ潮時だ。
世話になったから、出て行く前に挨拶くらいはしておかないと。
天化の部屋は、屋敷の中ではかなり奥の方にある。
暗殺防止やら、副司令の威厳やらの建前があるようだが、本当は、多少さぼっていても家人の目に触れにくいからに決まっている。
「天化」
……返事がない。
部屋に入ってみると天化は椅子に座ったまま、目を閉じていた。
書類を片付けている途中で、うたた寝してしまったらしい。
珍しく真面目にやっているかと思えば、この男は。
「天化」
まだ起きない。
ちょっと首を絞めてみる。
「ぐえっ」
さすがに起きた。
「なんてことしやがる……」
「今日は、兵士たちの様子見に行かなくてもいいのかい?」
「午前中は定期訓練だし、俺が出張らなくても大丈夫だろ」
「そう、残念だね。てっきり行ってると思って、作ったお弁当、訓練場の方に届けてもらったのに」
「なんだって?」
「そろそろお昼……。いなかったら皆で分けてって伝えといたから、もう食べられちゃったかな」
「……行くぞ」
「ん?」
「お前も来い。ついでにまた手合せ頼む」
すく、と立ち上がるなり、有無を言わさず引っ張っていく。
まったく強引なんだから。
本当は、旅に出ることを告げようと思っていたのだけど。
……もう一日くらい延ばしてもいいか。

試合中、また無限倒落の穴に落ちた副司令がいたことは、日直の兵士に頼んで、日誌には記録しないでもらった。


   おわり






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