暁が導く道を、共に 弐


セーブルに戻った後、はた迷惑な御曹司のおかげで一騒ぎだった。
ダインはふう、とため息をつく。
まったく、戦うよりもよほど疲れた。
だが、ようやくセーブルの民の誤解も解け、領主からも王子の力となるよう、正式に命じられた。
これで本格的に王子の手助けができる。
乱稜山の主を圧したあの剣士と、肩を並べて戦うことができるのだと思うと、妙に高揚した気分になる。
勇猛で鳴らすセーブルにも、剣の腕が立つ者、戦略に優れる者はたくさんいるが、彼は今までに会ったことのないタイプの人間だ。
自分を迷わず盾にしてしまうところが、少々気になるが……あれだけの腕を持ちながら、奢ることもない。
剣を競うだけではなく、きっと良い友人となれるだろう。
階下に下りると、王子がダインに気づいて微笑んだ。
「今日はお疲れ様」
「殿下もご無事で何よりでした」
ちょっと照れくさそうな顔になったのは、ワイバーンの一件を思い出したからか。
「ところで殿下、ベルクート殿と少々話させていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わないけど。ぼくに許可をとる必要なんてないのに」
一礼をして出て行こうとするダインに、そうだ、と王子が笑った。
「ベルクートは時々、素ですごい殺し文句言うから。気をつけて」
「は?」
確かにあの顔で女性を口説けば、すごい効果がありそうだが。
何故自分が気をつけねばならないのだろう?
疑問符に埋もれながら、兵舎に向かう。
探していた剣士は、隊兵たちがいる兵舎の片隅で、剣の手入れをしていた。
「お隣、よろしいですか」
どうぞ、と迎える笑顔は、とても竜族を恫喝して退けた人間とは思えない。
「ベルクート殿……今日は申し訳ありませんでした」
「?」
「皆さんを護るために同行したというのに……我々は、ワイバーンが現れた時に、ただ見ていることしかできなかった」
「お気になさらないでください。優先すべき人を考えれば、当然のことです。王子殿下とダイン殿を、山賊討伐ごときで失うわけにはいきません」
「私も?」
「ファレナが揺らいでいる今、南の守護神がいなくなれば、アーメスはまたとない好機と見て攻めて来るでしょう。ダイン殿はこの国に必要な方です」
確かに、あの時ワイバーンに立ち向かえなかった理由の一つはそれだった。
これまでの小競り合いの繰り返しから得た二つ名とは言え、アーメスの動きを封じる役には立っている。
セーブルにも勇猛な戦士は多いが、虎視眈々と隙を伺っている敵国を抑えるには、まだ心もとない。
「それは、確かにそうなのですが……」
だからと言って、一人を犠牲にして逃げるような状況になったこと。
それがどうしても納得できずにいた。
そしてもう一つ。
「何故、あのワイバーンを倒さなかったのですか?」
そもそも、最初の攻撃で倒していれば、あれほどの危険を冒す必要はなかったのだ。
彼の腕なら、それができたはずなのに。
「倒した方がよろしかったですか?」
返ってきたのは、おや? と言いたげな言葉と表情だった。
まったく調子が狂う。
「いえ、そういうわけではないのですが……。切れない方の刃を使ったでしょう」
ああ、とベルクートは微笑んだ。
「あちらにとっては、人間の方がなわばりを荒らした侵入者です。先住している者を、邪魔だからと殺すような真似はしたくありません」
それに、と彼は続けた。
「ダイン殿の部下の方が、あのワイバーンを「乱稜山の主」と言っているのが聞こえました。「北の守護神」という名も」
やはり、隊兵たちの呟きが聞こえていたのか。
あの後に攻撃に出たので、てっきり「強敵」と判断して一刀両断する事を選んだとばかり思った。
「昔、アーメスとの小競り合いの時、あのワイバーンはアーメス側を攻撃したのです。あれにとっては、なわばりを騒がせた人間を追い払っただけのことなのかもしれませんが、セーブルの者には、この地を護ってくれたように思えたのでしょう」
「ダイン殿の二つ名は、あのワイバーンと対なのですね」
南の守護神。
「私には過ぎた名だと思うのですが……」
「いいえ、とてもふさわしいと思います」
皮肉でも嫌味でもなく。
「先ほど、何故ワイバーンを倒さなかったか、と聞かれましたが」
まっすぐな目は、世の欺瞞や策謀などとは程遠い。
「貴方と同じ名を持つ者を、手にかけたくなかったのです」
「……っ!」
言われた瞬間は、それほど感じなかったのだが……後から、気恥ずかしさがどっときた。
(王子殿下がおっしゃっていたのは……これか――!)
「どうかされましたか?」
「いえ……なんでも――」
尋ねられても、まともに顔を見返せない。
確かにすごい殺し文句だ。
どれくらいすごいかと言えば……今後、何があろうとも、この人は敵にしたくないと思ってしまうような。
政治的な駆け引きや、裏切り、謀略が絶えない戦乱の世。
今日の朋友が、明日には敵に回るかもしれないこの時勢だというのに。
不思議そうに見つめてくる相手に、一体なんと答えたものか。
心の中で頭を抱えていると、軽い足音と共に、銀の髪の少年が飛び込んできた。
「セーブルからの援軍として、ダイン殿が来てくれると聞きました」
ラウルベル卿との正式な話し合いが終わったのだろう。
「はい、セーブルの騎馬隊は、明日から王子殿下の指揮下に入ります。これからは私も王子殿下に従う一人です。どうか、ダインとお呼びください」
「分かった。ダイン、これからもよろしく」
毅然とした態度と口調に切り替えると、王子は数歳大人びて見える。
嬉しそうな笑顔の後、なぜか急に視線が落ちた。
「ところで……あの件なんだけど」
「あの件――?」
王子はまだしばらく迷っていたが、きっと顔を上げた。
「……貸すだけだから!」
「は?」
「騎馬隊を編成する時に、貸すだけだから! ちゃんと返してね!」
言うだけ言って、止める間もなく駆け出して行ってしまった。
「「殿下!?」」
呆然と見送る剣士二人。
「ダイン殿、あの件……とは?」
「さぁ、私にもさっぱり」
「もしかすると、ラウルベル卿と何か約束なさったのかもしれませんね」
「ソリス様は、援軍を出すのに交換条件など出す方ではないのですが……。出立前に、お聞きしてみます」
狐につままれたような顔のまま、二人は別れの挨拶をした。

***

「それではソリス様、行って参ります」
「私が行けない代わりに、王子殿下をお助けしておくれ」
これからダインは、セーブルの代表として王子の軍に参加することになる。
しばらくは戻れない。
名残惜しく挨拶を交わした後、ダインは気になっていたことを主に尋ねた。
「ところで――昨日、殿下と何かお話されましたか? 殿下が「あの件」とおっしゃっていたのですが、私には分からなくて……」
「うん? ああ、あのことかな」
ソリスは、すぐに思い至ったようだった。
「実は、ダイン君の隊の子たちから、何通も直訴状が来ててね」
「直訴!?」
こんな時期に、領主に直接嘆願するとは何事だ?
セーブルから離れるのは嫌だとか、ファレナ王家の内乱に関わりたくないとか、言い出している者がいるのだろうか。
だが、ソリスの表情に緊迫感はない。
「王子殿下の元に、ベルクートという人がいるだろう?」
「は?」
ここで、その名が出てくるとは思わなかった。
「殿下の軍で、セーブルの騎馬隊を編成する時には、ぜひ彼を副長につけて欲しいそうだ」
「はぁっ?」
あいつらめ、自分に内緒でなんて要望を。
大方、今日の山賊退治に同行した者たちだろう。
あのワイバーンとの対決を見てしまっては、気持ちは分からないでもないが。
「セーブルの隊兵たちが、他所の人を希望するなんてあんまり珍しいから驚いてね。それで、王子殿下に、騎馬隊を編成する時には考慮してくれないかと頼んでみたんだよ」
唖然、というかあきれた、という表情になっていたダインに、領主が心配そうに首をかしげる。
「……余計なことだったかな?」
「い、いえ、とんでもない! 願ってもないことです」
機会があれば、こちらから願い出ようと思っていたところだ。
部下に先を越されたことは少々悔しいが、殿下の許可をもらえたということで良しとしよう。
(貸すだけだから! 返してよね!)
王子殿下が言っていたのは、このことだったのか。
まったく、ベルクートという人物は、本人の意思に関わらず周りが騒ぎを起こしてしまい、それに巻き込まれてしまう性質(たち)なのかもしれない。
気の毒に。
けれど、本当に面白い。
戦いに赴くという時に不謹慎とは思っても、つい笑がこぼれてしまう。
その様子を、ソリスが、おや珍しいという顔で嬉しそうに見守っていた。





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――自分もすでに「面白い」一人になっていることには気づいていないダインさんでした。
セーブルの騎馬隊には、ちゃくちゃくとベルクートさんのファンクラブができてます。
さりげなく、隊長のライバルになる予定(笑)。

今回の話は、王子視点のものと対になっていて、ワイバーンの火炎で無事だったこと、ワイバーンが逃げて行った理由はそちらで書きます。
最初は、一本にまとめて、ダインさんと王子の視点を交互にしてスピード感だそうと思ったのですが……。
やっぱり読みにくかったので、結局二人を分割しました。
自分の日本語能力の限界を思い知りました orz

なお、ベルクートさんの剣が片刃というのは捏造です。
ベルさんの剣は、クレイモアが一番近いかな、と思ってます。四葉はないですが。
クレイモアなら両刃で良いのですが、片刃にしておけば手加減しやすそうだと思いまして。
Wikiクレイモア外部リンク


蛇足。

今回は、実際ゲーム中であったことを放り込んでみました。

その一。
二周目の乱稜山、山賊退治はものすごくあっけなく終わったのですが、帰りにワイバーンに襲われました。
フィールドボスって奴です。
ベルクートさんは装備しっかりしていたので楽勝だと思っていたら、
火炎や尻尾の範囲攻撃くらってパーティ壊滅状態に!
なんとか倒せましたが、怖かったのなんの……。
あんまり仲間が倒れすぎて誰に反応したのか分からないのですが、怒り状態になったベルクートさん、三連撃決めてくれましたよ。
……最初のターンに、それ出してくれてたらなぁ……w

その二。
ダインさんの騎馬隊には、いつもベルクートさんに同行してもらってました。
仲良さそうですし、AP+5は美味しい。
同行してもらうたびに思うこと。
ベルクートさん、馬乗れるんだ!
なんでもソツなくこなしてそうな気はするけれど。


暁が導く道を、共に 壱

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