Act.3:嵐の中へ


「会いたかったぞ、永久の眠りから目覚めた少年よ」
「は、はぁ……」
教主国マラン・アサにあるセクンダディ本部。
ジュネル大森林の爆発の参考人として、アドニスはマスターラバンと対面していた。
怖そうなおじいさんを前にして、アドニスは縮こまっている。
「それでは、後はよろしくお願いいたします」
「ええええ!?」
あっさり置いていってしまいそうなアインザッツに、アドニスが必死に救いを求める視線を投げる。
見かねたマスターラバンが、呼び止める。
「待ちたまえ、オスティナート大尉。彼は第七に配属しようと思うのだが……」
「あいにくうちは、少数精鋭を旨としておりますので」

執務室の空気が凍りついた!

(何気なく、役立たずは要らないと言ったわね)
イシュタルが、緊迫した雰囲気に、わくわくを隠せない顔でラバンとアインザッツを見比べる。
「だ、第七は、他の隊に比べて、能力バランスの悪い者が多いと聞いておるが?」
「確かに曲者は多いですが、皆、一芸に秀でております」
ラバンの反撃に、アインザッツは間髪入れずに反論する。
(さりげなく、一芸すらないとまで言ったわ!)
きりが無いと見たイシュタルが、シルトクレーテへの特別手当を提案するまで、ラバンとアインザッツの間で熾烈な言葉の攻防が繰り広げられたのであった。

***

「……それで結局、第七へ?」
「うむ、しばらく預かることになった」
「アドニスにだって、彼にしかできないことがありますよ、きっと!」
ヴェルトがかばう。
しかし。
「斧や剣は重くて持てないし」
「殴らせりゃ、手首を捻挫する」
「魔法適性はないみたいですしぃ……」
「銃か弓なら大丈夫かと思ったんだけど」
「ひどいノーコンで的に当たらん」
ざっくざくと、言葉の刃がアドニスに突き刺さる。
膝を抱えたアドニスの背後から、ぬっとかまぼこ目のロボ、もといアンゲルスが現れた。
「アドニスはんにも特技がありまっせ! アポクリファの保管でんがな!」
おお、と隊員たちが手を打った。
「特技っつーか、特異体質?」
「随分コストパフォーマンスの悪いロッカーだな」
隊長から特別手当の話を聞いて、機嫌を直した隊員たちの声を聞きながら、艦橋の隅で肩を寄せ合う新入り二人。
「よ、よかったね、アドニス。居ていいみたいだよ」
「ありがとう、ヴェルト……あんまり嬉しくないけどね――」
その背後に、アンゲルスが「哀愁」というカンバンを掲げてもらい泣きしている。
「隊長。アデル砂漠のオアシスより、通信が入りました」
シルトクレーテの操縦桿を任されているモニカが、アインザッツを呼んだ。

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セクンダディ、ファルズフ第七中隊殿
当方、ソーマの異常について情報あり
直接、ケブの泉へ来られたし
               教主庁神殿騎士 グラナーダ
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「分かった。これよりアデル砂漠へ向かう」
「「「「「「了解」」」」」」
「りょ、りょうか……っ」
常に一拍タイミングがずれるアドニスであった。

***

「ついに来たな、この時が」
「ああ……」
ジャディスとエレオスが自らの武器を確認する。
「い、一体この先に何がいるんですか?」
「そらお前、世にもおっそろしい生き物だよ」
「そこらのエピックなんぞ目じゃない」
「そんな凶暴なのがオアシスに!?」
「だから十分注意――」
砂漠地帯から、緑の草が生え始めた土地に足を踏み入れた瞬間。
バネのような罠が発動し、先頭にいた四人をオアシスの泉へ沈没させた。
「わぁ。『影牢(テクモのトラップバトル)』みたいですぅ」
見事獲物を仕留めた凄腕の狩人、もとい、教主庁の女性神殿騎士が進み出る。
「カデンツァ様。お待ちしておりました」
「グラナーダ、久しぶり」
カデンツァはにこやかに、グラナーダは炎熱下でもあくまで涼しげに挨拶を交わす。
「さ、カデンツァ様、どうぞアグババ霊廟へお進みください」
「あれ? ソーマ嵐とか、ソナス教主の許可とか、アクタイオンとか、タルナーダは?」
「ご安心を。ソナス教主より許可をいただき、すでにアクタイオンから赤棘石を入手、中和弾でソーマ嵐を沈めた上で、タルナーダも討伐済みです」
「出てきたと思ったら、そこまで話を省略するか」
「ソナス教主から許可って、一体どうやって」
「なんでぼくまで……」
ようやく水から這い上がってきた三人が、恨めしげにぶつぶつ言っている。
「聞きたいか?」
「い、いや、なんとなく想像つくからいい……」
教主に同情しつつ断ったエレオスに、グラナーダが表情一つ変えずに嘲笑の視線を投げる。
「カデンツァ様のためを思うなら、このくらいやっておけ。材料入手や教主説得なぞでお手を煩わせるなど言語道断」
「〜〜〜〜〜!!!」
「落ち着け! 倍になって返って来るぞ!!」
銃を構えたエレオスを、ジャディスがなんとか食い止める。
カデンツァは、火花散るような対決は少しも気にせず、ずぶぬれの仲間を眺めていたが、うらやましそうに呟いた。
「涼しそう。……ぼくも水浴びしていいかな?」
一応疑問形を取ってはいるが、返事も待たずに泉へと歩いていく。
「……てめえら、見るんじゃねぇ!」
「それは、女が水浴びしてる時に、男に向かって言うセリフだろ!」
エレオスと女性陣の間でまたバトルが勃発したが、カデンツァは服のまま泉に飛び込み、まだ沈んでいたアドニスに気づいて引っ張り上げた。

***

「遅いわよ、いつまで待たせる気?」
「ひぃっ、すすす、すみません!」
クイント神殿の最上階に入るなり、いきなり叱責されて飛び上がるアドニス。
「ほら、これも預かってて」
ぽい、と投げられたアポクリファが、アドニスに吸い込まれる。
「ちょ、ちょっと、これは一体なんなんだ、君は一体!?」
勇気を振り絞って叫んだアドニスに、イデアは小さくため息をつく。
「本当に忘れてるのね。わたしたちは『アレーティア』のために存在しているのよ」
謎かけのような言葉を残して、踵を返す。
「さ、行きましょう」
「ああん、今はなんの力も無いのに威厳たっぷりのイデア様、す・て・き」
「我らの力はイデア様のために存在するもの也」
「イーデア、かわい〜」
素直についていく三人の姿に、無性に腹が立つのは何故だろう。
しかし、何も言えないまま、彼らが消えるのを見送る。
それにしても。
「あれいてぃあってなんだろう……」
「説明しよう!」
「わあ!?」
突然背後から言われて、また飛び上がる。
しかし、カデンツァは気にせず続ける。
「アレーティアとは古の時代に世界を恐怖で支配していたという邪神の名だ。しかし、団結して立ち向かった人々と、ソーマの力によって滅ぼされたという。……ナレーションっぽく上手く言えたかな?」
「カデンツァ、お前まで三馬鹿につきあわなくていいから」
「このネタは時期ものだから、今のうちに使わないとね」
そうこうしているうちに、上方で轟音が起きた。
しばらくして。
見上げた隊員たちは、上が空になっていることを知った。
「わー。三角が空飛んでる」
「ピラミッドパワー!?」
「バナナを入れておくと、腐らないってヤツか」
「ム○っぽいですねぇ」
「そういえば、睡眠学習装置とかあったな」
「そうそう、よく雑誌の裏表紙に掲載されて堂々と売ってた」
「最近じゃ、マイナスイオンがなんたらとか!」
「波動エネルギーのトル○リンゴとか!」
「似非科学って面白いよね」
「効果の無い製品は販売禁止とか言うけどさ」
「面白がって買っている分にはかまわないよね」
「ホントなら『霊験あらたかな』お守りとか、真っ先に問題になりそうなのに」
わいわいと盛り上がる隊員たち。
恐る恐る声をかけてみるアドニス。
「あのう、ぼくはどうしたら」
「「「「「「後に(して・しろ)」」」」」」
似非科学につられたヴェルトにまで言われ、アドニスは、アンゲルスから『似非科学とは何か』を教わり始めた。
しかし、ようやく理解した頃には、とっくにその話題は終わっていたのであった。

***

一方その頃、教主庁のバルコニー。
「……少しくらいっ! カデに会わせてくれたって、いいではないか……っ!」
さめざめと泣いている教主を、おつきの者たちが必死に慰めていた。





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グラナーダ様、ご登場です。
隊長! 誰も敵いません!

そして不憫の道をつっぱしるアドニス君。

……どうしましょう、自分で書いててえらい可愛くなってきました。








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