Act.6:ここよりはるか
クレモナの戦闘艦ベルリオーズで隊員たちを迎えたのは、グラナーダであった。
ぶつかり合った槍と銃身で、ぎりぎり、と力のせめぎあい。
銃の使い方を間違えているような気もするが、正しい使い方をさせてくれるほど、敵は間合いを許してくれない。
「おい……何気なく俺ばかり狙ってないか?」
「当たり前だ。邪魔者を排除できるまたとない機会、逃してたまるものか」
副長は真っ先に片付けられ、他の隊員たちは広間の隅で応援の構えに入っている。
残されたエレオスも、逃げ遅れた、と言う方が正しい。
これは相当長期戦になるかと、隊員たちがレジャーシートなどを広げ始めた頃。
ひらりと隊員たちの上に、一枚の紙が落ちてきた。
手に取ったカデンツァが、読み上げる。
「『エレオス、君の犠牲は忘れないよ』?」
「ちょ――!?」
驚いて振り返ったのを見逃すはずもなく、グラナーダの華麗なダブルループが決まった。
「この程度で動揺するなど、修行が足りん」
さらにぐりぐりと穂先で追い討ちをかけようとするのを、「まぁまぁ」となだめて、カデンツァが回収する。
「中ボスが強すぎて先に進めないってのは、RPGとしてどうなんだろう?」
「一人が犠牲になって、仲間を先に進めるパターンなんだよ、きっと!」
「いやいや、犠牲になっただけで、止められてないぞ」
ようやく起き上がった副長が、もう一度倒れていようか、という顔で天を仰ぐ。
隊員たちとグラナーダを見比べていたカデンツァが、彼女に尋ねた。
「グラナーダ。……急ぎなんだ、通ってもいいよね?」
「どうぞ」
「「「「いいのかよ!!」」」」
「別に私は、イデア殿に足止めなど頼まれていない。通るなと言った覚えもない」
確かにそうだったかもしれない。
「納得できねぇ……っ!」
こちらです、と道案内を始めた女騎士に、エレオスが呟いた。
***
「全国の女子高生の皆様、お待たせいたした」
「ぐー……zzz]
「寝てんじゃないよっ!」
「出たな、三馬鹿」
続いて立ちはだかったのは、ウンブラスたち。
「なぁ、イデアは足止めさせてないんだろ? 戦う必要ないんじゃないの?」
ミラーズの問いに、フェデルタがびしっと答える。
「ここで戦わないと、わたしたちの出番がないでしょ!」
「戦う理由はそれなのか……」
「アンビシオン、グード、やっておしまい!」
「参る!」
「おー!」
二人は武器を構え、駆け出したが……後ろから約一名が来ないので立ち止まり、振り返った。
「フェデルタ殿はどうなされた?」
「高みの見物に決まってるわ。お化粧崩れたらどうするのよ」
「多少崩れても変わる顔では……」
「かわんないー」
ぽそっとアンビシオンが呟き、グードが無邪気に復唱した。
「おだまり!!!」
すかさず、フェデルタの鉄拳制裁が決まる。
彼女はカンプスでもやっていけそうだ。
ぷしゅう、と効果音つきで倒れた二人を足蹴にしていたフェデルタは、しばらくして我に返った。
「し、しまった、これじゃ私が戦わなくちゃならないじゃない!」
そして第七隊員たちに向かって、指を突きつける。
「お前たち、よくもやったわね!」
「「「「「やってない、やってない」」」」」
「先に進んでも良いかね?」
今までの流れをさらりと無視して、隊長が尋ねる。
「いいわけないでしょ!? こうなったら、わたし一人でも……」
「戦わなければ、化粧崩れないんじゃないか?」
副長の言葉に、フェデルタがぴたりと止まる。
「フェデルタさん、お肌きれいですよねぇ、お手入れとコツを教えてくださぁい」
「あ、あら。仕方ないわね」
フォルテに言われ、まんざらでもないようだ。
「睡眠時間はたっぷり8時間、朝はヨーグルトと新鮮なサラダ、それからフルーツね、昼は適度な運動とストレス解消、夜はゆーっくりお風呂に浸かることよ」
「ふむふむ、素敵な生活ですねぇ」
「いいな、あたしも下僕が欲しい」
優雅な暮らしは、下支えがいるからこそ。
もちろん、フェデルタのそれは、そこで転がっている二人に違いない。
フォルテとミラーズが、物欲しげに眺めたその先は。
「「何故そこでこっちを見る」」
ジャディスとエレオスが言ったのは同時だった。
***
ついに来た、ソーマパレスの最上階。
「遅かったわね。それじゃ、始めるわ」
頬杖をついてちょこんと座り込んでいたイデアが、可愛いあくびを一つして、立ち上がる。
彼らが到着するまで、待っていてくれたらしい。
そして、宙(そら)に向かって手を差し伸べ、呪文を唱え始めた。
「ちょっと待て! アレーティアの意識がリングを通過すると、ビジターになるんだろ!?」
「そんなことより、イデアさんがいなくなってしまうのが大問題です! 超合金ロボみたいなイデアさんはイヤです!!」
そういえば、降臨したアレーティアは、どこかのヒロインロボに似ているかもしれない。
「おい、アドニス出番だぞ!」
「ええええ、いやです!」
「お前がイデアに吸収されて、アンゲルス……はいないから、オルフェウスがヴェルトの力を解放するんだろ?」
すでに縛り上げ、祭壇に供える用意は万全だ。
フォルテとミラーズは、『生贄』『貢物』という立て札まで用意している。
「ままま、待ってください!」
みの虫状態で必死に逃げつつ、アドニスが叫ぶ。
「アレーティアと一緒に消されるのやだし、ヴェルト君が力を発揮できるほど、ぼくを好いてくれてるとは思えないし――!」
「確かに」
「無理だな」
「ええ、ムリです」
ヴェルトまでが同意する。
オルフェウスも、ひらりと袖を振った。
「今回、ヴェルトはすでにアンゲルスと契約している。私は別の者でないと」
アンゲルスに出番を譲る気は、さらさら無いらしい。
「えーと、ソーマと相性がよくて、オルフェウスさんの力を発揮できるくらい、誰かのことが大好きな人ってことですかぁ?」
「そんな人材が、都合よくいるわけ……」
ジャディスの呆れたような呟きがだんだんと小さくなり。
視線が、一人に集まる。
――いた。
「お前だな」
オルフェウスに、袖で指されたのは、エレオス。
「断る!」
「即答したな」
「帰って来れないかもしれないんだろ、冗談じゃない」
「守りたい人間がいるんじゃないのか?」
「う――」
「おらおらおら」
契約を迫るオルフェウスと、反論につまったエレオスの間に、カデンツァが割り込んだ。
「ダメだよ! エレオスに何かあったら、ぼくは……ぼくは――」
「やっぱりやる!」
決心などというものは、意外とあっさり覆されるものだ。
特にいいところを見せたい相手が近くにいる場合には。
「……どうすれば相手がやる気になるか、分かって言ってる辺り、アイツはおっそろしいな」
「今更だろう」
隊長と副隊長が深々とうなずき、女騎士がふっと微笑んだ。
「お前がいなくなっても、カデンツァ様は私がお守りする。安心して玉砕して来い」
「そう簡単に散ってたまるか! ――うわっ!?」
「早くどけ」
舞い降りたオルフェウスが、すとん、とエレオスの中に入る。
しばらく動きを止めていたエレオスが、顔を上げた。
冷徹な無表情は確かにオルフェウスのもの。
「アンチマスタケイジの機能制限解除。マスタケイジ『イデア』の活動を停止させる」
きっ、とイデアに目をやると同時に、その周りに風が渦巻くような強大なソーマの流れが生じた。
「お? なんか格好いいじゃん」
「ソーマ(オルフェウス)に食われたか」
「ようやくSFっぽくなってきたな」
「え、これってSFだったの?」
普通の人間たちは、お役御免とばかりに広間の端へ避難する。
「ふむ。オルフェウス殿にこのまま留まっていただきましょうか」
「やだ。あんなのエレオスじゃない」
ぷう、とカデンツァがふくれた。
友達というのは、完璧よりはちょっと砕けている方がちょうどよい。
「……だそうだ。不本意だが、元に戻れ」
「――っ!?」
蹴飛ばされたエレオスから、ぽん、とオルフェウスが飛び出した。
「こら、何をする。イデアを止められないではないか」
「世界の平和なんぞより、カデンツァ様の御心の平安の方が重要だ」
二人が言い争っている隙に、カデンツァはエレオスを引きずって回収する。
どうやら、倒れた友人を介抱するポジションがマイブームらしい。
対象に選ばれた相手は、幸せなのやら不幸なのやら。
「なんだか誤解があるようだけど」
大騒ぎを見ていたイデアが、ふうとため息をついた。
「アレーティアを止める必要なんかないわよ?」
「だって、アレーティアが来たら超巨大なビジターになるんだろ?」
「リングの機能を完全に止めたから、人間の精神波の増幅も止まってるわ。今なら、アレーティア本体が一気に降りられるし、ソーマを集めて宇宙に去るまで、人間時間で言えばほんのコンマ数秒よ」
「万が一、ビジター化しても、暴れる前に元に戻るってことか」
「それじゃ、原作ではなんでビジターが大発生したんだ?」
「アドニスの力が足りなくて、リングの止め方がゆっくりだったからよ」
「す……すいません――」
全員の視線を一身に受け、アドニスはみの虫を通り越して、団子虫のように丸くなった。
「なるほど、そういうことであれば、私の力も貸そう。アンゲルス、お前もやれ」
「わい、こんなになっとりますのに、まだこき使いまっか……」
ぽん、と現れたアンゲルスは、ソーマのエネルギーをオルフェウスにほとんど吸収されたらしく、手の平大になっていた。
その姿は、いうなればSDガ○ダム。
それでも、懸命に両手を広げて、エネルギー提供に協力している。
「それじゃ、始めるわね」
イデアが両手を宙(そら)に向かって広げ、すぐに振り返った。
「終わったわ」
「「「「「早っ!」」」」」
「地上から、ソーマおよびビジターの反応がほぼ消滅しましたぁ」
モニターを眺めていたフォルテが、「お風呂どうしよう」と呟きながら報告する。
若き乙女にとっては、世界平和と同じくらいお風呂が大切である。
「人々が生きていくための、最低限のソーマは残してあるわ。使い切らないうちに、早く別エネルギーに移行しなさい」
「何から何まで痛み入る」
先祖が強盗して追い出した相手に、サイフは取り返されたものの、帰りの電車賃まで心配してもらったような状況だ。
「ところで、3000年も漂っていたのに、何故アレーティアは急に活動を始めたんだ?」
「ビジターの襲撃の増加を心配してくれたのかしら?」
「いいえ。そろそろトルヴェールを眺めているのも飽きたから、里帰りすることになったの」
数千年を経てのホームシックか。
さすが、気が長い。
「そういえば、イデアさんとアドニスも、言ってみれば「アレーティアの欠片」なわけですよねぇ。何故二人とも、降りてきた時に、ビジターのようにならなかったんでしょう?」
「私は人間の意識に乗っ取られないだけの意思の力があったもの」
威張るでも、誇るでもなく、当たり前のようにイデアが答える。
「アドニスは?」
「彼は――アレーティアの意識の中でも一番臆病で、人間の意識にさらされても、それ以上怯えようがなかったの」
「0には何をかけても0ってことか」
「がーん」
みの虫からようやく脱皮しかけていたアドニスが、越冬前のサナギになるべく、荷物から被るものを探している。
しかしバッグから出てくるのは、赤とか黄緑とかエンシェント武器防具ばかりだ。
こんなにたくさん背負わされていたのか。
最後にアルマシールド

を見つけて、途方に暮れているアドニスへ、イデアが手を差し伸べた。
「さ、アドニス、私たちも帰りましょう」
「え、あ、う?」
「別に残ってもかまわないけれど」
アドニスの脳裏に、第七の隊員たちと過ごした
楽しく温かい日々が走馬灯のように駆け巡った。
「帰る! 帰ります!!」
蘇った記憶は、
よほど素晴らしいものだったらしい。
二人の姿が、透けるようなソーマの光となった。
片方は自信に満ちた、暖かな赤。
もう片方はおどおどしたような青。
「アレーティアの元に帰ったら、私がみっちり訓練してあげるわ」
「ひぃっ!?」
青い光が、さらに蒼ざめた生気の無い色になった。
今なら一撃でSブレイクできるに違いない。
「や、やっぱりぼく、地上に残……」
「ではごきげんよう」
ここよりはるか遠くで悲鳴が聞こえたような気がする。
二つの光が消えるまで見送り、第七中隊の面々は、感慨深く空を見上げた。
「行ってしまったな」
「イデアさん、格好良かったですねぇ」
「がんばれよー、アドニス!」
副長の応援が、パレスに響く。
帰り支度を始めた隊員たちの間から駈け出したヴェルトが、空に向かって叫んだ。
「イデアさーん! まだお話ししたいこと……どころか、まだ話してません〜っ!!」
『裏』ではさらに空気となっていた主人公であった。
***
「隊長、大変です。ソーマが急激に消失して……」
シルトクレーテに戻ってきた隊員たちの元に、残っていたモニカやマートルたちが駆けつけてきた。
「アレーティアは、必要最低限のソーマを置いていくと言っていたが?」
「はい、確かになくなったわけではないのですが」
「転移できるだけのエネルギーを貯めるまで、一ヶ月はかかるかと」
「――水不足で給水制限のかかった水道のようだな」
限られた資源は、大切にしないといけないのである。
使える状態だと、あればあるだけ使ってしまうと判断して、元栓を絞ったアレーティアはきっと正しい。
「ザイン大陸で、当分無人島生活か」
「『サバイバルキッズ』(ばーい、コナミ)ですね」
「そういえば、DSとWiiでリメイクされてるんでしたっけ」
「みんな、拾い物+合成ゲームって好きだよねぇ」
「ソーマでも、合成をオーブだけじゃなくて、武器とかモンスターとかでもできるようにしてさ」
「時々『かになっくる』みたいのが出来るんだね」
「失敗すると、スライムが登場するわけだな」
「「「次回のソーマには、是非ご検討を!」」」
「誰に言っている、誰に」
とりあえず彼らは、無人島でも十分やっていけそうだ。
お わ り
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そして傷心の少年は旅に出る。(こら)
「裏」完結であります!
こんな崩壊した話についてきてくださった、物好き 素敵な皆様方、本当にありがとうございます。
最後まで、楽しく書かせていただきました。
読み終わった時点で、少しでもアドにーの好感度が1%でも上がっていたら大成功です。
もちろん、「私は最初からアドにーが大好きなんだ」という人も大歓迎ですw
さりげなく不幸合戦になっていた、エレオスと副長にも声援を送ってやってくださいませv
ホントに最後までありがとうございました!
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?イデア←→アドニス?7