真実の光 ――聖歌(サーム)
普段は重苦しい空気の漂う下町の一角に、今日は華やかな飾りがあふれていた。
中央の広場では、子供たちが大きな木に競って木の実や端切れを結んでいる。
そんな中、明らかに毛色の違う少年たちが小声で言い争っていた。
「異教の祭りにお前が参加するのは、まずいだろうが」
「だからこそだよ。誰か間に入る者がいないと、教主庁が取り締まりで禁じてしまうかもしれない」
「お前が居てどうなるってもんでもない!」
夕礼をさぼるとか、禁じられている雑誌を読むとかとは明らかに問題のケタが違う。
宗教対立は根が深い。
ここは、他の地域で住居を失い、教主国を頼ってきた者たちのとりあえずの居住地。
教主国は彼らを受け入れたものの、その代償として彼らの宗教の放棄を求めた。
しかし、彼らはそれを善しとせず、救済のための物資も頑なに拒んでいた。
そして、最終回答とも言うべき行動が今日の祭りだった。
――彼らには、自分たちの宗教を手放す意思はないと。
「僧兵隊が本気になれば、この地区くらい制圧できる。止めるったって一人で何ができる!」
「……対策を考えてはあるよ。でも今日は」
いつもは飄々とかわすカデンツァが、沈痛な表情でうつむく。
「間に合わないかもしれない。ここからは離れられないし……」
つんつん、と袖を引かれた。
小さな女の子が、紙で作った星を持っている。
「お星様、てっぺんに飾るの」
その無邪気な言葉に、笑顔が戻る。
「うん、一緒にやろう」
異国の地で心細い思いをしていたであろう子供たちにとっては、待ちに待っていた楽しい行事。
彼らには、大人の事情など分からない。
いきなり中止を宣言されたら、どれほど悲しむだろう。
子供たちに囲まれて木の飾り付けを始めた後姿をしばらく眺め、エレオスは舌打ちしてその場を去った。
***
僧兵隊の動きは予想以上に早かった。
日が落ちる前に、広場にかなりの人数が集まっていた。
すでに抜かれた武器が、脅しではないことを示している。
「教主国において、異教の祭りを行うなど言語道断。即刻この飾りを取り外し、廃棄しろ」
居丈高に命じられ、住民たちに緊張が増す。
「我々は確かにこの国に助けを求めた。だが、我らの信仰を放棄するつもりはない!」
「ぬけぬけと……。この国に居るつもりであれば、そなたらの邪教など放棄するのが筋であろうが」
「邪教だと!?」
挑発にかっとなった住人が飛び出しそうになるのを、一人の少年が止めた。
「止めてください、子供たちが怯えています!」
僧兵隊の代表はわずかに武器の刃先を下ろし、多少口調を緩めた。
「カデンツァ様、他国を優遇しすぎては、この国の者に示しがつきませぬ」
「教義の押し付けと、子供たちのささやかな楽しみを奪うことが、教主庁の役目だとでも?」
「異教を認めることは、教主庁の教えを揺るがしかねません。芽は摘み取るべきです」
「この程度で揺らぐような教義など、ないほうがいい!」
「カデンツァ様! 最近の言動は目に余ります、いくら貴方様でも目を瞑れないことがある」
一触即発という空気に広場が満たされた、その時。
シャンシャン、という軽い鈴の音が聞こえてきた。
「サンタさんだっ!」
その場の雰囲気には不似合いな、子供たちの歓声が上がった。
ウマに曳かれた函形の車から顔を出したのは。
僧兵隊の者たちがざわめく。
「教主様!? そ、そのお姿は!?」
「朝起きたら、枕元に置いてあっての。暖かそうだから着てみただけじゃ」
赤の服と帽子に、白い髭がよく映えている。
集まってきた子供たちを優しく眺め、部下たちに彼らに土産を配るよう指示した後。
住民たちと向かい合った僧兵隊に厳しい目を向けた。
「なんと剣呑な。教主国の中で戦争でも起こすつもりか」
「いえ、決してそのような……」
「宗教は人を救うものでなくてはならぬ。争いの原因になるなど、もってのほかじゃ」
叱咤され、さすがに僧兵たちも決まりの悪そうな顔となった。
「戻れ。子供たちの目の前で、戦いなどを起こしてはならぬ」
一喝され、僧兵隊は武器を収めた。
波が引くように静かに立ち去り、広場には静けさが残った。
しかし、住民の一人が車を降りた教主を警戒心あらわに睨みつけた。
「そんな格好で、我々を欺こうとしても――」
「異国の出であろうと、そなたたちはすでにこの国の住民じゃ。……ほれ、子供たちが待っておる。大人の事情に彼らを巻き込むでない」
静かに諭す言葉に、ためらいながらも、住民たちはその場を離れ始めた。
本当に攻撃の意思も、祭りを強制的に止める気もないと判断し……ようやく、最後まで警戒していた男も、わずかに頭を下げ、去っていった。
「教主様、ありがとうございます」
「カデンツァよ。あまり思い上がるでないぞ。お前一人でできることなど、それほど多くはないのだからな」
「分かっています。だから、ご協力を仰ぎました」
「わしがこのような格好をしたのは、あの男の言う通り、宗教を別物として取り込んでしまうのが、我らにとっても痛手が少ないという狙いがあってのことじゃ」
「それで争いもなく済むのであれば、互いに妥協できる範囲でしょう?」
少年は悪びれず微笑む。
「大切なのは無駄な戦を回避すること。子供たちを守ること。それが叶うのならぼくは手段を選びません」
「まったく、我らはとんだ火種を抱え込んだものだ」
側近にウマを出せと指示しかけた時。
「……サンタさん、帰っちゃうの?」
「プレゼントありがと」
「ふおっ?」
子供たちに取り囲まれ、臨時のサンタはまんざらでもないようであった。
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真実の光2