四神伝 ―天化―7


西周りの経路で、どこにいるとも知れぬ白虎の魂を探しつつ、玄武の祠へ向かっている時だった。
少し元気になり、ふよふよと飛んでいたミニ朱雀が、前方から飛んできた何かにぶつかって弾き飛ばされた。
「なんだなんだぁ?」
ぶつかった方は、少しもダメージを受けていない様子できょろきょろしている。
聞き覚えのある声。
「お、天化じゃねーか」
「那咤……少しは前を見ろ、前を」
「だってよ、それどころじゃ……」
「なたちゃんみつけたのだーっ!」
「げげげっ、もう来やがった!」
那咤の後ろから、さらにどかーんとぶつかった者がいた。
その勢いに、さすがの那咤も吹っ飛ぶ。
「つぉーっ……雷震子、てめえ、頭突き食らわすんじゃねぇよ!」
「あたまくらくらなのだぁ」
「何やってんだ、お前ら」
まったくガキ共は呑気でいいな。
気候の異変もまるで気づいてなさそうだ。
「らいちゃんね、なたちゃんとあそんでるのだ」
「オ、オレは違うぞ! ちゃんと修行してたんだぜ」
「修行? 人界でか?」
「ああ。この辺にさ、強い動物がいるっていうから、勝負しにきたんだ!」
「しろいとらちゃんと、あおいりゅうちゃん」
「赤い鳥と黒い亀。人界で暴れてるって聞いたぜ」
「らいちゃん、さがしててあおいウロコをもらったのだ」
「それっていつのことだ?」
「昨日だぜ」
「昨日なのだ」
四神が分裂する前か……。
「おれはこれを拾ったぜ。いるか?」
戦利品は、銀色に輝く、鞭になりそうなほど長くしなやかなものだった。
ヒゲがこの大きさでは、元の白虎はさぞかしでかかったに違いない。
四神ゆかりの品だとすれば、青龍に対するときに役に立つはず。
とは言うものの、ガキからモノを取り上げるのもなんだよな。
「いや、お前が見つけたんだろ? お前が持ってな」
「そっか?」
気に入っているらしく、那咤はムチのように振り回している。
「雷震子のは?」
「らいちゃんのウロコはね、おにーちゃんにあげちゃったの」
「おにいちゃん? 誰だ?」
「んとね、ぶおうちゃん。ウロコみて、きれいだねっていうからあげちゃった」
武王? なんでここでその名が出て来るんだよ!
「それはいつだ?」
「んーとね。ごはんのまえくらい?」
「一刻くらい前かな」
俺たちが城を出た後かよ。
何をやっているんだ、あの人は!
「それじゃ、オレたち、行くからよ」
「いくのだ」
「何をする気だ?」
「決まってるだろ、ホンモノ見つけて勝負するんだ!」
「しょうぶなのだ」
どちらが先につくか競争しているらしく、また凄まじい勢いで飛んでいく二人を見送って、こっそりため息をつく。
四神も災難だ……。
まぁ、朱雀は小さくなっちまってるし、きっと見つからないだろう。
すぐに玄武の元へ向かったとしても、寝ている奴に手を出すこともあるまい。
弱いものいじめはしない連中だ。
さて、こっちのミニ朱雀はどこにいっちまったんだ?
吹っ飛ばされた先の茂みをかきわけてみると、そこはちょっとした崖になっていた。
あんなでも鳥だから、墜落死ってことはないだろうが。
まったく、仮にも神と呼ばれる存在のくせに、手のかかる……。
丈夫そうな蔓を伝って崖を降りる途中。
岩壁から無理に生え出した木に、一匹の猫が引っかかって、鳴いていた。
なんでこんなとこに。
崖の上から落ちたのか?
まぁ、ついでだ。
首根っこをつかんで、袖に放り込む。
下に降りるまで暴れてくれるなよ。
幸い、すぐに寝入ってしまったのか、小さく喉を鳴らす音だけが響いていた。
それほどの高さではなかったが、崖を降りるのに結構かかってしまった。
足場が少なかったからな。
降りてみると、そこにミニ朱雀が目を回して落ちていた。
やれやれ、世話の焼ける神サマだ。
「おい、しっかりしろ」
「うぬぬ〜、子供は嫌いだ〜」
「焼き鳥にされなかったことを感謝しとけ」
拾い上げた時、背後から大きな霊気が膨れ上がった。
やばい。
確認しなくても分かる。
白虎の魄だ!
猫が獲物に飛びかかる時のように、身構えるその姿。
大きさは牛の数倍ほどもある。
身体が一気に膨れ上がったように見えたのは、錯覚ではなかった。
逆立った毛の一つ一つが鋭い金属のトゲとなり、俺たちへと放たれた。
逃げても、とても間に合わない。
朱雀は先ほどの戦いで力を使い果たしている。攻撃を防ぎきれないだろう。
こうなったら、一か八か……
「朱雀剣!」
オレの火の術力で、どこまで四神に対抗できるか。
察した朱雀が、残った力を合わせた。
現れた炎の鳥が、俺たちの直前でトゲを受け止め、すべてを融かした。
火の弱属性である白虎は、朱雀相手では不利と考えたか、身を翻して逃げてゆく。
その姿が見えなくなったのを確認して、力尽き、ぽてっと落ちるミニ朱雀。
「ふぃ〜なんとかうまくいったな。だが、二度は無理だぞ」
「分かってる。ヤツが気づく前に行くぜ」
白虎を封じるための朱雀の羽がない以上、対抗手段がない。
逃げるんじゃないぞ、戦略的撤退ってやつだ。
ミニ朱雀を引っつかみ、北へ向かう。
目指すは、玄武の祠。


四神伝 ―天化―8




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